東京高等裁判所 平成9年(行ケ)14号 判決 1998年3月19日
アメリカ合衆国
オハイオ州、シンシナチ、ワン、プロクター、エンド、ギャンブル、プラザ
原告
ザ・プロクター・エンド・ギャンブル・カンパニー
同代表者
ジェイコブス・シー・ラッサー
同訴訟代理人弁理士
佐藤一雄
同
小野寺捷洋
同弁護士
吉武賢次
同
神谷厳
同弁理士
野一色道夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
荒井寿光
同指定代理人
佐藤雪枝
同
後藤千恵子
同
廣田米男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成7年審判第19718号事件について平成8年9月6日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文第1、2項と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年3月28日、特許庁に対し、名称を「単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンドを有する使い捨ておむつ」とする発明(以下「本願発明」という。)について、1985年(昭和60年)3月29日にアメリカ合衆国においてした特許出願による優先権を主張して、特許出願(昭和61年特許願第70642号)をしたが、平成7年5月31日、拒絶査定を受けたため、同年9月18日、審判を請求した。そこで、特許庁は、この請求を、同年審判第19718号事件として審理した上、平成8年9月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月24日、原告に対し送達された。
なお、原告に対し、出訴期間として90日が付加された。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)
おむつの少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分を横切って延出する少なくとも1つの弾性的に伸縮性のウエストバンドを有する使い捨ておむつであって、
(a)流体透過性トップシート、
(b)流体不透過性バックシート、
(c)前記トップシートと前記バックシートとの間に介装された吸収性芯、および
(d)内方部分および外方部分を有する少なくとも1つの単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材(前記部材は前記おむつの前記の少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分に沿って延出し、前記部材の前記内方部分は前記トップシートと前記吸収性芯との間に介装され、前記部材の前記外方部分は前記トップシートと前記バックシートとの間に介装され、かつそれらに貼着される)
を具備し、そして前記の少なくとも1つの弾性的に伸縮性のウエストバンドは前記の単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材の前記外方部分からなることを特徴とする使い捨ておむつ」(別紙図面1参照)
3 審決の理由
審決の理由は別添審決書理由記載のとおりである(なお、引用例については別紙図面2参照。以下、引用例記載の発明を「引用発明」という。)。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由のうち、引用例の記載内容が審決認定のとおりであること、引用発明のウエストシールが本願発明のウエストシールド部分に相当する点を除き、本願発明と引用発明の構成が審決認定のとおり一致すること、本願発明と引用発明とが審決認定のとおり相違すること、両発明の相違点についての判断が審決記載のとおりであることについては認めるが、審決は、本願発明と引用発明との一致点の認定において、本願発明のウエストシールド部分が弾力性、伸縮性を有しないものに限定される点において、引用発明におけるウエストシールと一致しないにもかかわらず、これを一致すると誤って認定したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。
(1) 本願発明において、「ウエストシールド」(ウエストバント部材の内方部分)と「ウエストバンド」(ウエストバンド部材の外方部分)は一体的に構成されているが、そのうち、ウエストバンドについては、本願発明の特許請求の範囲第1項の記載において、特に「弾性的に伸縮性」を有するものとされており、したがって、このような限定がなされていないウエストシールドは、その対比上、「弾性的に伸縮性」のものでないことは明らかである。
また、本願発明におけるウエストシールドは、その名のとおり、防水の役目を果たすものである(本願明細書22頁1行ないし7行)から、「弾性的に伸縮性」でなくとも良く、本願明細書の「発明の詳細な説明」欄においても、ウエストシールドが「弾性的に伸縮性」であるとはされていない。
一方、ウエストバンドは、その名のとおり、収縮することによって、腰を(軽く)締め付け、おむつがずり落ちないようにするものである(本願明細書34-1頁)から、「弾性的に収縮性」でなければならない。そして、上記のとおりウエストバンドを収縮すると、ギャザーができるが、その場合、ギャザーの壁を通って尿などが外へ漏れてしまうおそれがあることから、それを避けるため、本願発明は、ウエストシールド部分において、敢えて、「弾性的に収縮性」ではない状態にしているのである。
(2) これに対し、引用発明におけるウエストシールを形成するウエスト伸縮部材42、44、88、90は、いずれも単一の原料からなり、その全体が「弾性的に収縮性」を有し、全体について収縮するものである一方、ウエストシールの一部分が弾性的でないことについては、引用例中において、明記も示唆もなされていない。
(3) なお、被告は、本願明細書(38頁19行ないし39頁17行)において、「単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材」の全体が「弾性的に伸縮性」であるものも、本願発明に包含される内容が記載されていると主張するが、その記載部分は、本願発明の最も好ましい態様である、熱を与えることによって弾性を取り戻すという特殊な素材を用いてウエストシールド/ウエストバンドを作る場合についてのものではなく、通常の弾性材料(伸ばせば縮もうとして伸縮性になる材料)を用いてそれを作る場合についてのものである。
すなわち、通常の弾性材料を用いて、ウエストバンドに当たる外方部分については横幅を短くし、ウエストシールドに当たる内方部分については横幅を長くとった上、トップシートに取り付けるに際して、横幅の長い内方部分(ウエストシールドとなる部分)を、特に伸ばすことなく、そのままの状態でトップシートに貼着し(これにより、ウエストシールドは「弾性的に伸縮性」にはならない。)、横幅の短い外方部分(ウエストバンドとなるべき部分)については、横幅方向に伸ばして、トップシートに貼着する(これにより、ウエストバンドは「弾性的に伸縮性」となる。)という方法によっても、ウエストシールド/ウエストバンドを作ることができるということが、上記記載部分において開示されているに過ぎず、被告主張のような趣旨が記載されているものではない。
(4) そして、本願発明は、引用発明との上記構成の違いにより、尿などを漏らさないという重要な作用効果を奏するものであるから、上記構成の違いが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(5) したがって、本願発明のウエストシールド部分が、引用発明におけるウエストシールと一致するとした審決には、両発明の一致点の認定を誤った違法があり、取り消されるべきである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
1 請求の原因1ないし3の各事実は認める。
同4は争う。
審決の認定、判断は正当であり、審決には原告主張の違法はない。
2 取消事由についての被告の反論
(1) 本願明細書の特許請求の範囲第1項の記載からみるならば、本願発明におけるウエストバンドが「弾性的に伸縮性」であること、ウエストシールド及び「弾性的に伸縮性」のウエストバンドが単一の部材であることが明らかであるが、ウエストシールドについては、同記載において、「弾性的に伸縮性」のウエストバンドと単一の部材であること以外に、特に限定されるところがない。すなわち、本願発明の特許請求の範囲第1項の記載において、ウエストシールドが「弾性的に伸縮性」のものではないということは、何ら記載されていない。
(2) また、本願明細書の「発明の詳細な説明」欄においては、「別の構造として(しかし、それほど好ましくない)、ウエストシールド/ウエストバンド18は如何なる通常の弾性材料からも作ることができる。(略)内方部分56は、(略)その緩和状態においてトップシート12に貼着される。(略)外方部分57は、(略)その伸張状態においてトップシート12およびバックシート16に収縮自在に貼着される。(略)2つの部分間の示差弾性は、或る程度伸びに抵抗するであろう吸収性芯14によって発生される。」(38頁19行ないし39頁17行)と記載されており、これによると、本願発明は、「単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材」の全体が「弾性的に伸縮性」である場合をも包含するものというべきである。
(3) 以上によれば、本願発明におけるウエストシールドが「弾性的に伸縮性」のものを含まないとする根拠はなく、そのため、原告の主張に係る、ウエストシールドが「弾性的に伸縮性」でないことから生じる作用効果も、本願発明の特許請求の範囲第1項の記載に基づくものとはいえない。
したがって、審決には、原告主張のように、本願発明と引用発明との間の一致点の認定を誤った違法はないものというべきである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由)については当事者間に争いがない。
また、引用例の記載内容が審決認定のとおりであること、引用発明のウエストシールが本願発明のウエストシールド部分に相当する点を除き、本願発明と引用発明の構成が審決認定のとおり一致すること、本願発明と引用発明とが審決認定のとおり相違すること、両発明の相違点についての判断が審決記載のとおりであることについても、当事者間に争いがない。
第2 本願発明の概要について
成立に争いのない甲第2号証(本願発明についての特許願書及び願書添付の明細書)及び甲第3号証(平成7年4月18日付け手続補正書)によると、本願発明の概要は以下のとおりであることが認められる。
1 本願発明は、少なくとも1つの単一のウエストシールド及び弾性的に伸縮性のウエストバンドを有する使い捨ておむつ、失禁ブリーフ等に関する(本願明細書4頁3行ないし7行)。
2 技術上、多くの異なる基本的デザインを有する使い捨ておむつが既知であるが、更に改良された使い捨ておむつが求められている(同5頁18行ないし9頁1行)。
3 そこで、本願発明は、使い捨ておむつとして要旨記載の構成を採用したものである(同1頁6行ないし2頁9行)。
4 前記のとおり、本願発明は、単一の、ウエストシールド及び弾性的に伸縮性のウエストバンドを具備する、使い捨てのおむつに関するものである。
本願発明においては、上記材料のシングル(単一)片は、液体がその腰縁を通して吸収性芯から漏れるのを防止することによって、おむつの体接触表面をより乾燥させるウエストシールド(液体不透過性バリヤー)として、また、着用者の腰の回りへのおむつのフィットを高め、かつ腰領域からの液体の漏れを遅延させる傾向がある弾性的に伸縮性のウエストバンドとして役立つ(同9頁3行ないし12行)。
5 本願発明の具体的説明(同9頁13行)
(1) 別紙図面1第1図は、エレメントが組み立てられた後であるが、単一の、ウエストシールド及び弾性的に伸縮性のウエストバンド部材が収縮される前、そして、おむつの使用される前の、本願発明の好ましい使い捨ておむつ10の部分切取平面図である(同10頁12行ないし18行)。
(2) ウエストシールド/ウエストバンド18は、2つの機能を果たす。すなわち、ウエストシールド/ウエストバンド18は、弾性的に伸縮性のウエストバンドを与えるとともに、おむつ10の端セグメント45及び47からの、吸収性芯14により吸収された液体の早期の漏れを防止しようとするバリヤー部材として役立つ(同22頁1行ないし7行)。
(3) ウエストシールド/ウエストバンド18は、好ましくは、一方向に収縮し、かつ加熱などの特定の処理後に弾性になる高分子材料から形成され得る(それらの、転移温度に加熱され、かつ伸張配向に延伸できる弾性材料は、既知である。)。次いで、それらは、冷却され、比較的非弾性的になり、新しい伸張配向で固定される。爾後の加熱は、材料を、それらの初期(非延伸または緩和)配向に収縮させ、かつそれらの弾性を回復させる。
このような材料がウエストシールド/ウエストバンド18として使用されるときには、トップシート、バックシート及びウエストシールド/ウエストバンドが、すべて非弾性配向にある際に、好ましくは固着横断領域75によって、一緒に貼着される。
次いで、システムは、加熱され(例えば、熱風で)、高分子材料は、その緩和(又は収縮)弾性配向に戻される(ウエストシールド/ウエストバンド18は、ウエストバンド部分のみが加熱され、収縮弾性状態に戻される。)。
ウエストシールド/ウエストバンド18は、水分バリヤーとしても機能するので、ウエストシールド/ウエストバンド18の原料は、液体不透過性でなければならない(同22頁16行ないし24頁1行)。
(4) 第2図は、ウエストシールド/ウエストバンド18が内方部分56及び外方部分57からなることを明らかにする。内方部分56は、ウエストシールド/ウエストバンド18のウエストシード面を与え、外方部分57は、ウエストバンド面を与える。
内方部分56は、トップシート12と吸収性芯14との間に介装され、芯縁表面42から、一般に吸収性芯14の中心にむけて、芯縁表面42付近の第一対向表面48の部分からの液体の漏れに対し保護を与えるのに十分な距離を延出する(同24頁2行ないし13行)。
(5) 第3図及び第4図は、ウエストシールド/ウエストバンド18が、例えば熱風で収縮された後のおむつ10を図示する(同30頁3行ないし5行)。
トップシート12及びバックシート16は、ギャザーの付いた状態で示される(34-1頁1行ないし3行)。
(6) ウエストシールド/ウエストバンド18内での材料の弾性は、おむつを使用者の腰の回りに締結させ、かつ使用者の体に近接関係にさせ、それによって、より良好なフィットを与え、かつ、使用者の腰におけるおむつからの液体の漏れを防止する(34-2頁11行ないし16行)
(7) ウエストシールド/ウエストバンド18は、単一構造物であり、使用時に、外方部分57は、内方部分56よりも有効に弾性でなければならない(35頁16行ないし36頁2行)。
ウエストシールド/ウエストバンド18は、材料がその熱不安定状態にある際におむつ10に組み込まれる。次いで、ウエストシールド/ウエストバンド18は、示差的に加熱されて、外方部分57を内方部分56よりも完全に熱安定な弾性状態に戻させる。外方部分57への加熱の制限は、いかなる好都合な方法でも達成され得る(36頁11行ないし17行)。
第3 審決取消事由について
そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 原告は、本願発明におけるウエストシールド・ウエストバンド部材の外方部分であるウエストバンド部分については「弾性的に伸縮性」を有するものであるが、同部材の内方部分であるウエストシールド部分は「弾性的に伸縮性」を有しないものであるから、ウエストシールド部分については、引用発明のウエストシールと一致するものではないと主張する。
2 そこで、検討するに、本願明細書の特許請求の範囲第1項において、ウエストシールド・ウエストバンド部材に関して、「内方部分および外方部分を有する少なくとも1つの単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材(前記部材は前記おむつの前記の少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分に沿って延出し、前記部材の前記内方部分は前記トップシートと前記吸収性芯との間に介装され、前記部材の前記外方部分は前記トップシートと前記バックシートとの間に介装され、かつそれらに貼着される)を具備し、そして前記少なくとも1つの弾性的に伸縮性のウエストバンドは前記の単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材の前記外方部分からなる」(「請求の原因」2)と記載されていることについては、前記第1のとおり当事者間に争いがない。
上記特許諸求の範囲の記載によれば、本願発明におけるウエストシールド・ウエストバンド部材とは、ウエストシールド部分がおむつの内方部分に、ウエストバンド部分がおむつの外方部分に位置する単一の部材であり、そのうち、ウエストバンド部分については、「弾性的に伸縮性」(弾性を持った伸縮性)を有するものとされているが、ウエストシールド部分の物性については、何らの限定もなされていないことが一義的に明らかである。
そうすると、本願発明におけるウエストシールド・ウエストバンド部材のウエストシールド部分については、「弾性的に伸縮性」のものも、「弾性的に伸縮性」でないものも、ともに含まれるものと解さざるを得ず、また、本願発明の特許請求の範囲第1項におけるその他の記載内容を検討しても、上記解釈を妨げる部分は存在しない。
3 これに対し、原告は、本願発明の特許請求の範囲第1項において、ウエストシールド部分と同じ部材の一部であるウエストバンド部分の性質が明文をもって限定されていることとの対比上、明文による限定のないウエストシールド部分については、ウエストバンド部分とは反対の性質を有するものと解すべきである旨を主張するが、上記特許請求の範囲において、単一部材の一部であるウエストバンドの性質に限定が加えられたとしても、そのことから当然に、単一部材の他の部分であるウエストシールドの性質について、上記限定とは逆のものとして理解すべき理由がないことは明らかであるから、原告の上記主張は失当である。
また、原告は、本願明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載からも、本願発明のウエストシールド部分については、「弾性的に伸縮性」でないものと解される旨を主張するが、ウエストシールド部分の性質については、前記2のとおり、特許請求の範囲の記載から、その技術的意義が一義的に明確に理解できるところであり、本願明細書の「発明の詳細な説明」欄を検討しても、ウエストシールド部分の性質を定義した記載はなく、好ましい実施例には、ウエストシールド部分が「弾性的に伸縮性」でないものが示されているものの、本願発明の要旨を上記実施例記載の構成に限定して解釈すべき理由は存しないから、原告の上記主張は採用できない。
4 そうすると、本願発明のウエストシールド部分が、原告主張のように、弾力性、伸縮性を有しないものに限定されると解することができないことは明らかであるから、弾力性、伸縮性の有無の点において、上記ウエストシールドと引用発明のウエストシール(その構成が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。)とが相違するものと認めることはできない。
5 更に、引用例の記載に係る引用発明の構成が審決認定のとおりであることは、前記第1のとおり当事者間に争いがなく、それによると、引用発明におけるウエストシールと、本願発明のウエストシールド、ウエストバンド部分とが、上記の「弾性的に伸縮性」の点以外においても、審決認定のとおり一致するものであることは明らかである。
6 したがって、引用発明のウエストシールが本願発明のウエストシールド部分に相当することは、優に肯定できるものというべきであるから、この点について両者が一致するとした審決の認定判断には、誤りはないものというべきである。
第4 以上によれば、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
口頭弁論終結の日 平成10年3月10日
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)
理由
1. 手続の経緯、本願発明の要旨
本願は、昭和61年3月28日(優先権主張1985年3月29日、米国)の出願であって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「1.おむつの少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分を横切って延出する少なくとも1つの弾性的に伸縮性のウエストバンドを有する使い捨ておむつであって、
(a)流体透過性トップシート、
(b)液体不透過性バックシート、
(c)前記トップシートと前記バックシートとの間に介装された吸収性芯、および
(d)内方部分および外方部分を有する少なくとも1つの単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材(前記部材は前記おむつの前記の少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分に沿って延出し、前記部材の前記内方部分は前記トップシートと前記吸収性芯との間に介装され、前記部材の前記外方部分は前記トップシートと前記バックシートとの間に介装され、かつそれらに貼着される)
を具備し、そして前記の少なくとも1つの弾性的に伸縮性のウエストバンドは前記の単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性のウエストバンド部材の前記外方部分からなることを特徴とする使い捨ておむつ。」
2. 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由において引用した特開昭57-193501号公報(昭和57年11月27日出願公開、以下、「引用例」という。)には、
「支持シートと、該支持シート上の吸収パッドと、該吸収パッド上に位置し、該支持シートにその少くとも二つの相対する周縁で固定された上方シートと、支持シートにその二つの相対する側縁に沿って固定され、クロッチシールを形成する相対する側方伸縮部材と、該支持シートに一端に沿って固定されたウエストシールを形成する伸縮部材とを含み、該クロッチシールとウエストシールは協働して最初のストレスと引張りをウエストシールとクロッチシール上に各かして、使用時人体への適合性と安楽性を改良するようにした使い棄ておむつ」(特許請求の範囲第1項)が記載されており、
相対したウエスト伸縮部材がウエストシールを形成すること(第2頁左下欄第16~18行)、
ウエストシールは特に吸収パッドの上に位置する時、流体障壁として作用すること(第2頁左下欄20行~同頁右下欄第2行)、
ウエストシールはおむつの側縁を越えて延長し、従来のテープタブ手段に代わる一体手段を備え、おむつを幼児の周りに固定するようにできること(第2頁右下欄第2~5行)、
おむつは防水ポリビニールその他の支持シート22を含むこと(第2頁右下欄第12~13行)、
伸縮性且つ防水性障壁42(第4図)が支持シート22と上方シート24の間に接着剤又は加熱シールにより固定され、ウエストシールを形成すること(第3頁左上欄第13~16行)などが、図面とともに示され、特に、第4図には、ウエスト伸縮部材42の一方(吸収パッドから離れた側)が上方シート24と支持シート22との間に介装され、他方が上方シート24と吸収パッドとの間に介装されているものが示されているものと認められる。
3. 対比
そこで、本願発明と引用例に記載された使い棄ておむつとを対比すると、引用例の「上方シート」は引用例には、「好ましくは非織ポリエチレン又はポリプロピレン繊維の」(第2頁右下欄第13~14行)と記載されているのみであるが、吸収体の上に位置するものであることから、従来この種のおむつにおいて周知のように液体透過性のものでなければならないので本願発明の「流体透過性トップシート」に相当し、引用例の「支持シート」は「防水ポリビニールその他の」の記載からみて、本願発明の「液体不透過性バックシート」に相当し、引用例の「吸収パッド」は、本願発明の「吸収性芯」に相当するものと認められ、さらに、引用例の第4図に符号42で示された「伸縮性且つ防水性障壁」が形成すると記載された「ウエストシール」は、「ウエストシールは……おむつを幼児の周りに固定するようにできる」との記載から、本願発明の「ウエストバンド部材」に相当し、おむつの横方向縁に沿って延出しているものと認められ、また、本願発明でいう「内方部分」、「外方部分」は、それぞれ、ウエストバンド部材の「吸収性芯から離れた側の部分と吸収性芯側の部分を意味するものと認められ、引用例の第4図に符号42で記載された「伸縮性且つ防水性障壁」もその吸収パッド側の部分(内方部分)が上方シート(トップシート)と吸収性パッド(吸収性芯)との間に介装され、吸収パッドから離れた側(外方部分)が上方シート(トップシート)と支持シート(バックシート)との間に介装されており、接着剤等により固定されているものと認められる。
したがって、本願発明と引用例に記載された発明とは、
おむつの少なくとも1つの横方向縁の少なくとも一部分を横切って延出する少なくとも1つのウエストバンドを有する使い捨ておむつであって、
(a)流体透過性トップシート、
(b)液体不透過性バックシート、
(c)前記トップシートと前記バックシートとの間に介装された吸収性芯、および、
(d)内方部分および外方部分を有する少なくとも1つの単一のウエストシールドおよびウエストバンド部材を具備し、
前記ウエストバンド部材の内方部分はトップシートと吸収性芯との間に介装され、外方部分はトップシートと前記バックシートとの間に介装され、かつそれらに貼着される
ようにされた使い捨ておむつである点で相違がなく、
<1>本願発明の「ウエストバンド部材」が「単一のウエストシールドおよび弾性的に伸縮性の」とされるのに対し、引用例に記載された「ウエストシール」は、「伸縮性」とはいっているが「弾性的に伸縮性」とは記載されていない点。
<2>本願発明において、弾性的に伸縮性のウエストバンドはウエストバンド部材の外方部分からなるとされているのに対し引用例のウエストシールは伸縮性のある部分を特に記載していない点。
で相違する。
4. 当審の判断
そこで、前記相違点について検討する。
相違点<1>について
つかい捨ておむつのウエスト部分に弾性部材を配することは本願出願前周知であり、また、引用例の、「クロッチシールとウエストシールは協働して最初のストレスと引張りをウエストシールとクロッチシール上に各かして、使用時人体への適合性と安楽性を改良するようにした」という記載(上記記載中「各かして」の意味は不明であるが、特許請求の範囲第8項の記載から「課し」の意味に解釈するのが妥当と認める)から、引用例でいう「伸縮性」は、最初ストレス(応力)を受けて引っ張られ、使用時は人体に適合するものであるから、本願発明でいう「弾性的に伸縮」することも含みうるものと解されるので、引用例のウエストシールを「弾性的に伸縮性」のものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項と認める。
相違点<2>について
上記相違点<1>について述べたように、引用例に記載されたウエストシールを弾性的に伸縮性のものとしたとき、ウエストシールの吸収パッドから離れた側すなわち外方部分も当然弾性的に伸縮性のものとなり、しかも、その吸収パッド側(内方部分)が吸収パッドと上方シートの間に介装されていればおむつをウェスト上に適用する(弾性的)作用は主として外方部分が分担するものと認められるので、この点には実質的な相違はないものと認められる。
5. むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許注第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙図面1
<省略>
図面の簡単な説明
第1図は本発明の使い捨ておむつの部分切取斜視図(或るエレメントの厚さは明瞭化のために誇張されている)、第2図は2-2線に沿ってとられた第1図のおむつの断面図(或るエレメントの厚さは明瞭化のために誇張されている)、第3図はおむつのウェストバンドの態様を図示する第1図のおむつのウェストバンドの拡大部分図、第4図は第3図に示されるウェストバンドの部分の端面図である。
10…おむつ、12…トップシート、14…吸収性芯、16…バックシート、18…ウェストシールド/ウェストバンド、56…内方部分、57…外方部分、58…液体移行抵抗性セグメント、60…圧密部分、75…固着横断領域、76b、76t…非固着横断領域。
別紙図面2
<省略>
<省略>
図面の簡単な説明
第1図は本発明の一実施例により構成された使い楽ておむつの平面図、第2図は伸縮ウエスト部材を使用する本発明の変形例の部分平面図、第3図に第2図の3-3線の平面に沿つて切断した断面詳細図、第4図は第2図の4-4線の面に沿つて切断した断面詳細図、第5図は第4図と同様の図で、変形構成例を示し、第6図は本発明の他の実施例の平面図、第7図は輸送用に折りたたまれた第6図によるおむつの平面図、第8図はおむつな幼児に着衣するように組立てる方式を示す斜視図である.
10、70:おむつ、12、72:また部(クロツチ領域)、
14、16、18、20、74、76、78、80:耳部、
22、72:支持シート、24:上方シート、
26、86:吸収パツド、
34、36、38、40、82、84:側方伸縮部材、
42、44、88、90:ウエスト伸縮部材